◆「真珠、彼女に届いたろうか」 藤之倉千種
「ねえ、宝石の中で何が一番好き?」
高校生のときの仲間とした他愛のない会話。
なぜか今でもはっきり覚えている。
ダイヤ、サファイア、エメラルド、銀……
「私、真珠が一番好き」
と、はるかは言った。あ、わかるー。はるかに合ってるよね。と私たちは口ぐちに言った。
確かにはるかのイメージに真珠は合う。
どちらかといえばおとなしい方で、大声でさわいだりはしない。けれど、いつもにこにこしていて、とてもやさしい性格だ。みんなからも好かれていた。本が大好きで図書委員もしていた彼女。目立存在ではないが、人をホッとさせる何かを持っていた。
「誰が一番最初に男の人からプレゼントされるだろうねえ」
私が意外とはるかみたいなオクテのタイプが怪しいかもしれないよ、とジョーダンを言うと、えー、あたしは遅いよー、と笑っていた。
みんながいなくなり、はるかと二人だけになったとき、
「永瀬君に好きって言っちゃえばいいのに」
と、私ははるかにけしかけた。
「ええー。絶対ダメ。絶対できないよ」
彼女は片思いでいいと言うのだ。
顔をカーっっと赤くさせる彼女の反応がとてもかわいくて、私は何度か“告白しちゃいなよ攻撃”をしては楽しんだりしていたのである。
二年前、高校のクラスの同窓会が開かれた。八年ぶりに会う顔。けどすぐに、あっ○○ちゃん!という声があちこちでする。
思い出話に花が咲いた。
そんななかで、まるでウソみたいだなー、と私は思った。
にぎやかな光景の中に、はるかの姿はなかった。高校を卒業して一年目、短大に入ったばかりの彼女は交通事故で亡くなった。
あっけなさすぎる死だった。友人の死というものに初めて直面し、強いショックで私は涙さえ出なかった。本当に、私は彼女が大好きだったから-
二次会は居酒屋だった。隣の席には、ずいぶんと大人っぽくなった永瀬君がいた。
大学を卒業して、今は小学校の先生をしているという。彼らしいなあと思った。
「竹田さん、もう四年もたつんだね」
ふいに彼が静かになった。さみしそうな顔をしている。
「藤之倉さん、竹田さんと仲良かったよね……実はさ、オレ、竹田さんのことけっこう好きだったんだぁ」
急な彼の言葉にびっくりした。思わず目頭が熱くなった。
よかった、よかった、よかった。はるか、あのとき両思いだったんだね。お互いに好きな相手が自分のことを好きだってこと、知らないまま終わっちゃったけど、けど、永瀬君はるかのこと好きだったんだって。
それは、すごくステキなことだよね。
私は彼女もあなたを好きだったということ、とてもとても好きだったということを、彼に話した。
あの真珠のエピソードもいっしょに。
「真珠かー。今からじゃ遅すぎるよな」
しんみりとした顔で、彼は言った。
帰りぎわのことである。
「彼女のお墓、どこにあるの」
彼がたずねてきた。
「××だけど」
答えてから、私はピンときた。いや、もしかしてちがうかもしれない。でも、きっと、そんな気がする。
彼は言葉にしたわけではないが、彼女に真珠を送っておげるような、そんな気が私はしたのである。
(「パール・エッセイ集Vol.1」の作品より)