拾ってあげた真珠 橘川 春奈
お母さんとホテルへ行った時、すてきな洋服を着た女の人たちがたくさんいました。ちょうど結婚式がおわって帰る人たちのようで大きな荷物を、みんな持っていました。私とお母さんが、レストランの方へ行こうとした時、
「アッ、大変。ヤッダー。どうしよう。」
という、大きな声がしました。後ろをふり返って見たら、ピンクのドレスの人が、かがみこんで、じゅうたんの上の物を拾っていました。見ると、かわいい白い玉が、たくさんころがっていました。ピンクのドレスの人のまわりの人は、みんな大きな荷物を持っているので拾いにくそうでした。私は何も持っていなかったし、手が細くて小さいので、大きなソファの下にころがった玉も拾うことができました。全部で四つ拾ったので、私は、ピンクのドレスの人のところへ、持っていきました。ピンクのドレスの人は、だまって、私から玉をうけとりました。うけとってからも、その人は、何も言いません。外国の男の人も拾ってくれて、持ってきてくれたのに、やっぱり何も言いませんでした。いくらびっくりしていても、拾ってもらったら、ちゃんとお礼を言うべきだと、私は思いました。
レストランへ行ってから、この場面を見ていたらしいグループの人たちが、
「さっき、ネックレスの糸が切れた人がいてね、真珠がころころころがっていたでしょ。」
「本物だったら、しっかりしたつくりをしているはずだから、あんなに簡単にとれないわよね。」
「そうよね、あれ、絶対イミテーションよ。」
「それに、あの人、自分じゃ、あんまり熱心に拾っていなかったじゃないの。だから、本物じゃないのよ。本物だったら、もっと必死になるわよねえ。」
とか言っているのが、きこえました。私は、それを聞いて、さっきのきれいな玉が真珠だったことを知りました。私が知っている真珠のイメージは、やさしくて、きれいで、心のあたたかい人がつけるものだと思っていたから、拾ってもらっても、お礼も言わない人につけてもらいたくありません。だから、あの拾ってあげた真珠は、イミテーションの方がいいと思いました。レストランで、その話をしていた女の人たちも、みんな、きれいな洋服を着ていて、いろいろな色の宝石をつけていました。真珠の人もいました。みんな、すてきに見えました。でも私は、そんなにきれいな人たちが、他の人の悪口みたいなことやうわさ話みたいなことを、ずっと熱心に話し合っているのは、良くないことだと思いました。きっと、つけられている真珠や宝石たちも、がっかりしていると思います。
私も、いつか大人になります。そしたら、真珠をつけたいです。お礼をちゃんと言える大人になって、悪口やうわさは言いません。
(「パール・エッセイ集Vol.1」の作品より) |