~「私の真珠物語 パール・エッセイ集VOL.2」 最優秀賞~
◆真珠のブローチ 近藤 玲子
「昨日はごめんねぇ」
前日、会社を欠勤した同じ職場のおばさんが、そう言いながら出勤してきました。
「父兄参観日やったんよ、息子の」
そのおばさんと私、今日はコンビを組んで仕事する事になっています。
で、向かいあって仕事を始めたんですよ。そのおばさん、仕事しながら思い出し笑いするんですね。
「うくくっ(にこにこ)うくくっ(にこにこ)」
「…どうしたんですか?」
「あ?あぁ、ごめんね、昨日の事思い出したら笑えて笑えて」
「…ほう、それはぜひとも聞かねばなるまい」
で、そのおばさんの話を聞きました。
「こないだ、うちの子、修学旅行に行って来たやろ、小学校の。で、母ちゃんの土産って言うて、ブローチくれやんたんよ、真珠養殖場で買うた、言うて。で、気持ちは嬉しいんやけど、あんた、小学生のおこづかいの中からのいくらかで買える物や。結婚式だ、なんだ、ちゅうような所へつけていける程ええ物ちがうし、どうしょうかなぁ、て思てたんよ。一回くらいつけな悪いやろ。ほんで、昨日の参観日につけて行ったんよ。これで息子に義理もたつ、思てな。今日、母ちゃんあんたにもろたブローチつけさせてもろたよ、ていえるしね。ほれで、ちょん、て服につけて学校行ったん。ほしたら…うくくっ。」
「うくくっ」、もらい笑いしながら、その人の話を聞いていました。
「…ほしたら、学校行って息子の教室の戸開けたら、殆どのお母さんが私とおんなじようなブローチつけてはるんよ!あれ、みんな他につけていくとこ思いつかんかったんやろうねぇ。子供は、『お母さん、あの真珠のブローチ、はよつけてみいや』て催促さんすやろうし。で、お母さんがひとり来はる度に、あの人もや、ゆうて、うなずきながら教室のうしろで笑てたんよ。みんなおんなじ事考えるもんやねぇ。」
あははと笑いながら、私はその子が旅行先で一生懸命お母さんへのお土産を選んでいるところを想像していました。
小学校の修学旅行のおこづかいは三千円。その中でお父さんにもおばあさんにも、お土産、記念に自分にもひとつくらい何か買いたい。みんな、何を買ったら喜んでくれるだろう、頭を悩ませていて、そしたら、おこづかいの範囲で買えるきれいなブローチがあった。しかも真珠がついている!
友達みんなに知らせたんでしょうね。「おい、いい真珠のブローチがあるぞ!」って。小学生だもの、真珠=(イコール)宝石。わあ、宝石買ってあげたらお母さんものずごく喜ぶぞ、僕買う、私も買う。
そして参観日、どのお母さんの胸にも、そのブローチが輝いていて、「あ、あのブローチ、お母さんつけてきてる。ほかのお母さんよりも、自分のお母さんの方がよく似合う」そう思ったんじゃないでしょうか、子供達。
おばさんが話を続けます。
「私が真珠のブローチもろたのみて、お父さんがいうんよ。『その養殖場へはわしも行った事があるけど、ほの時ひとつお前に買うたろかなて思たんや。けど、アクセサリーっちゅうのは買うても気に入らなしょうがないやろ。で、またいつかお前とここへ来た時、お前の好きなやつを買うたろ思て買わんかった。』うまいこと逃げやんすわ。だから、はよ買いに連れて行けゆうて、お父さん催促してるとこ」
御主人の話では、いいネックレスがあって二十万円程だったとか。あーっあれ買うたろかなーって思ってたそうです。
ねぇ、そう思ってらっしゃる御主人、なるべくはやく奥さんにそのネックレス買ってあげてくださいね。